題名:今日のストーリーは、「非現実的お嬢様 Part5」
報告者:ダレナン
(No.2968の続き)
この屋敷は、「影」の存在を隠すために作られた“檻”だったのだ。誰にも気づかれぬよう、血の繋がりすらなかったことにするために、家が“封印”した存在。
けれど、お姉さま──あのピアノのお嬢様は、最期の最期まで彼女を忘れなかった。
だから魂だけが、屋敷に残り、旋律を通して呼びかけていた。
「助けて、私を忘れないで。お願い、名前を、呼んで──」
僕は迷った。
けれど、その時、ポケットの中に一枚の古い紙があることに気づく。
屋敷に入るとき、玄関に落ちていた譜面。それには、こう書かれていた。
“Nocturne for Lilia”──リリア。
僕は静かに、鏡の中の少女に言った。
「君の名前は、リリアだ。君は、お嬢様の妹で、ずっとここに生きていた」
その瞬間、棺の周囲の黒い花が一斉に光に包まれる。鏡の中のリリアが、涙を浮かべて微笑んだ。
「ありがとう。これで……やっと、わたしは眠れる」
そして鏡は砕け、花も静かに散っていった。天井のどこかから、ピアノの音が流れる。それは祝福の旋律。哀しみではなく、解放の音だった。
僕は再び階段を上り、ピアノ室に戻った。だが、そこにはもう、お嬢様はいなかった。白いドレスだけが、椅子の上に残されていた。
彼女もまた、役目を終えて、妹と共に消えたのだ。
そして今、僕だけが知っている。
この屋敷の本当の名前は、“姉妹の記憶”──
閉じ込められた魂を解き放つために存在した、奇跡の檻だった。