No.2967

題名:今日のストーリーは、「非現実的お嬢様 Part3」
報告者:ダレナン

(No.2966の続き)
お嬢様は小さく首を振った。そして囁くように語り出す。

「かつてこの屋敷には、わたくしの“影”が住んでおりましたの。彼女はわたくしの妹。けれど、家のしきたりにより存在を認められず……この部屋に“閉じ込められた”のです。わたくしが奏でる音を、ただ一人で聴きながら……ずっと、助けを待ち続けていた」

僕の背筋に冷たいものが走る。

「まさか、その妹さんは……」

「ええ、とうの昔に命を失いましたわ。けれど、願いは消えなかった。わたくしも、もう人ではない。ただ、旋律を繰り返し、彼女をここから解き放つ“誰か”を待っていた。それがあなただったのかもしれませんわ」

お嬢様の顔から、儚い笑みが消える。

「助けて、という声が聞こえたなら、まだ彼女の魂は、この館のどこかに囚われている。でも、もし助けに行くのなら──覚悟をなさって」

僕は一歩、ピアノの前から踏み出す。

「行く。僕は、この館の“正体”を知りたいと思っていた。なら……最後まで見届けるよ」

すると、壁のひとつが音もなく崩れ、地下へと続く階段が現れた。
吹き上がる冷気。その中に、再び声が混じる。

「……ここに、いるの……」

それはもう、間違いようもなかった。
彼女は、生きてはいない。けれど、確かに今も“この館に”閉じ込められている。

──僕は階段を下りた。
この館の本当の秘密と、彼女の叫びに応えるために。

 
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