No.2966

題名:今日のストーリーは、「非現実的お嬢様 Part2」
報告者:ダレナン

(No.2965の続き)
「開けてしまったのね」

その声は、まるで風鈴のように静かで、冷たく、けれどどこか悲しげだった。

僕は知っていた。
この扉は、開けてはいけない扉だった。それでも僕は、開けてしまった。

お嬢様は、ピアノの鍵盤に指を置く。そして音が鳴る。
花々が揺れ、空気が震える。

その旋律は、まるで“時”そのものを巻き戻しているかのようだった。

そして僕は──確かに聞いたはずだった。
誰かが、館の奥で「助けて」と、囁くのを。

お嬢様の奏でる旋律に導かれるように、僕は気を失いかけていた。
けれどその刹那──耳の奥に微かに届いたのだ。

「たすけて」

それは、お嬢様の声ではなかった。
もっと若く、震えていて、必死だった。
まるで、永い時の牢獄に閉じ込められていた誰かが、ようやく外の世界に気づき、手を伸ばした瞬間のような。

ピアノの音が止むと、部屋の空気が一変した。
花々が一斉に静まり返り、蝋細工のようなお嬢様が、再び僕の方を見つめる。

「その声が聞こえたなら……あなたは、選ばれた人なのかもしれませんわ」

僕は、混乱のまま問いかける。

「……誰の声なんだ。あれは、誰が……?」

 
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