No.2965

題名:今日のストーリーは、「非現実的お嬢様 Part1」
報告者:ダレナン

かつて、この丘の上にはひときわ目を引く豪奢な館があったという。
白い壁に、真紅の屋根。バルコニーにはいつも花が咲き乱れ、夜には音楽が風に乗って流れてきたという。だが、ある時を境に人の出入りはなくなり、館はまるで時の流れに取り残されたように、廃墟となった。

なぜだろう。僕はこの館のことが頭から離れなかった。
何かが僕を呼んでいる気がした。いや、違う。何かが“ここにいる”と、ずっと前から知っていたのかもしれない。

そして、ある月のない夜。僕は館へと足を踏み入れた。
屋敷は外観以上に朽ちていた。屋根は崩れ、床は苔に覆われ、柱には蔦が巻きついていた。
だが、驚くほど静かで、そして…どこか懐かしい香りがした。

奥へ進むにつれ、空気が少しずつ変わっていく。
埃臭さの中に、ほんのりと甘い香りが混じる。それは確かに、花の香りだった。

──そして、その扉に辿り着いた。

重い木製のドア。そこだけは、どこか異質だった。
傷一つないその扉の隙間から、夜なのに不思議と陽の光が漏れている。

胸の鼓動が高まるのを感じながら、僕はそっと扉を押した。
軋む音とともに、目の前に現れたのは──

花。無数の花々が、部屋いっぱいに咲き誇っていた。
色とりどりの花が、まるでこの部屋だけが季節に取り残されたかのように、命を謳歌している。
中央には、古びたピアノ。その前に、ひとりの少女が座っていた。

純白のドレスに身を包み、肌は蝋細工のように白く、目だけが異様に深く、静かにこちらを見つめている。

声が出なかった。
息を呑んだまま、ただ立ち尽くす僕を、お嬢様は微かに笑ったようだった。

 
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