題名:今日のストーリーは、「甘い檻」
報告者:ダレナン
僕の朝は、彼女の「おはよう」で始まる。
LINEに届くその短いメッセージが、僕の一日を決める。今日は水を一口だけ飲んでから出かけなさい、とか。靴下の色は左が白、右が黒。それを守れなければ、夜には彼女からの「罰」がある。
最初はふざけた遊びだと思っていた。だが、僕は一度だけ命令を破ったことがある。その日、彼女は笑って言った。
「罰、ね。ほんとうに欲しいのは、罰なんでしょう?」
それからだ。僕は自分でも気づかないうちに、彼女に支配されることを望むようになった。食事の内容、服の選び方、口に出す言葉、見る夢さえも彼女の許可が要る気がしてきた。
彼女は優しい。笑って僕の髪を撫で、耳元で「よくできたね」と囁く。まるで褒められたい犬のように、僕は尻尾を振って喜ぶ。
でも、ある日ふと気づいた。彼女が命令しない日は、僕の中にぽっかりと穴が空く。何をすればいいのか分からず、指先が震える。自分で考えるという行為が、もうできなくなっていることに、僕はようやく気づいた。
けれど、それでも、逃げようとは思わなかった。彼女の「奴隷」でいることは、苦しくもあり、同時に甘美でもあったからだ。
夜。彼女の部屋で僕は床に膝をつく。首輪などはない。だが、彼女の目が僕を繋いでいる。
「ねえ、自由になりたいと思ったことはある?」
そう聞かれ、僕は答えた。
「あなたのそばにいるのが、僕の自由だよ」
彼女は少しだけ笑って、「そう、いい子ね」と呟いた。
その声が、何よりのご褒美だった。