No.2925

題名:今日のお題は、「時の花嫁 Part2」
報告者:ダレナン

(No.2924の続き)
君が歩み出すたび、床に咲く花びらは静かに色を変えた。
白から、金へ、そして、記憶にも似た柔らかな蒼へ。

空気は、遠い昔に聴いた音楽のように震えていた。
風もないのに、君のヴェールがふわりと揺れる。

「待って」と、誰かが言った気がした。
それは僕かもしれないし、君自身だったかもしれない。
けれど声は、届く前に、空の高みに吸い込まれていった。

君は一度だけ振り返った。
その瞳には、懐かしい夜の色と、永遠を閉じ込めた湖の静けさが宿っていた。

そのとき僕は気づいた。
君は、もう人ではない。
この世界に咲いた、ただひとつの祈りだったのだと。

時計の針が、音もなく最後の時を告げる。
君は、微笑みながら手を伸ばした。
目に見えない何かを抱きしめるように、静かに、やさしく。

そして、君は光そのものになった。

教会の天井を貫き、夜空へと溶けていく無数の光の粒。
それは、祝福と惜別のあいだをたゆたう、夢の破片だった。

僕はただ、胸の奥に残った温もりだけを手に、
長い夜を、そっと歩き始めた。

君と出会ったすべての日々を、
一つひとつ、拾い集めながら。

 
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