No.2924

題名:今日のお題は、「時の花嫁 Part1」
報告者:ダレナン

(No.2923の続き)
白いドレスに身を包み、君は静かに時を待っていた。
光も音も、すべてが少しだけ歪んで見えるこの場所で、君はまるで、空気そのものに溶け込むようにそこにいた。

天井から降る光は、ゆらゆらと揺れる水面のようで、
君のまわりに、目に見えない花びらを咲かせていた。

僕は、遠くから君を見つめた。
手を伸ばせば、触れられそうだった。
けれど、もし触れてしまったら、君は儚い夢となってしまうような気がして、ただ、立ち尽くす。

この瞬間、君に贈る言葉はきっと、「おめでとう」しかない。
胸の奥で、声にならない声が小さく震えた。

そして、思わず問う。
「しあわせかい?」

君は、そっと目を伏せ、それから静かに、こくりとうなずいた。

その仕草すらも、どこか現実離れしていて、
まるで、時の流れが君だけをやさしく包んでいるようだった。

僕は、そっと微笑み、ひとつ息をつく。
そして、もうこの世界には二度と戻らない者のように、音もなく背を向けた。

白いドレスの君は、微笑みながら、
時の彼方へと、静かに歩き出していった。

まるで、誰にも知られず咲いて、誰にも知られず散っていく、幻の花のように。

 
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