昨夜、河原の土手で拾った子猫。誰が捨てたのかは分からないが、段ボール箱には「どなたか育ててください」と書かれていた。最近、きれいなアパートに引っ越したばかりで、大家にも猫OKの確認を取っていた。だから、僕は迷わずその子を抱き上げ、家へと連れ帰った。
家に帰ると、子猫はくるくると部屋を探索し、僕の足元にすり寄ってきた。「かわいいな」と思いながら、軽く頭を撫でてやる。そして、バイトの疲れもあって、そのままベッドに倒れ込み、気づけば眠ってしまっていた。
翌朝。
目を覚ますと、そこには彼女がいた。
「えっ……?」
彼女――美咲が、僕の布団の隣でちょこんと座っていた。どうしてここに? 昨日はバイトの帰りに拾った猫を連れ帰って、それから……。
思考が追いつかないまま彼女を見つめていると、美咲は僕の目をまっすぐに見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「にゃおーん」
「えっ?」
思わず耳を疑った。しかし、彼女は間違いなく猫の鳴き声を真似たのではなく、本当に猫のように鳴いたのだ。しかも、その仕草が妙に馴染んでいて、まるで本当に猫がそこにいるかのようだった。
「美咲……? なんでここにいるの?」
彼女は困ったように首を傾げた。
「えっとね……昨日、拾ってくれてありがとう」
「拾ってくれて?」
「そう。昨日の夜、あなたが拾ってきたの、私なの」
そんなはずはない。昨日拾ったのは確かに小さな子猫だった。しかし、目の前にいるのは間違いなく人間の美咲だ。僕がつい先週、付き合い始めたばかりの彼女。
「どういうこと……?」
美咲は少し困ったように笑い、長い髪を耳にかけた。その耳は……猫のように三角にとがっていた。
「びっくりした?」
「いや……え、ええええっ!?」
ようやく事態を理解し始めた僕は、慌てて布団を跳ねのけた。けれど、目の前の光景は変わらない。
美咲の頭にはふわふわの猫耳が生えていて、彼女の背中からはしなやかな尻尾が揺れていた。
「猫……? いや、美咲……?」
彼女は少し恥ずかしそうに笑いながら、僕に向かって手を差し出した。
「私は猫で……そして、あなたの彼女」
「……え?」
美咲はすっと僕の顔を覗き込み、優しく微笑んだ。
「だからね……これからも、よろしくね?」
僕はまだ何も理解できないまま、美咲の伸ばした手をただ見つめるしかなかった。