題名:今日のお題は、「温泉に乗る」
報告者:ダレナン
(No.2858の続き)
「なんで俺たち、温泉に乗ってるんだ?」
康隆は困惑しながら、裸のまま揺れる湯面を見つめた。温泉の湯がまるで生き物のように波打ち、二人を支えている。
「そんなの、私が知りたいわよ!」
隣で同じく裸の奈々美が怒鳴る。だが、怒るのも無理はない。さっきまで普通に旅館の露天風呂に浸かっていたはずなのに、気づけば温泉の湯ごと空に浮かび、どこかへ運ばれているのだから。
ふわりふわりと、温泉は風に乗るように山の上空を進んでいく。真下には深い森、遠くには小さな村が広がっていた。まるで巨大な水風船に乗っているような不思議な感覚だった。
「おい、これってヤバいんじゃないか?」
「とっくにヤバいわよ!」
奈々美は湯に浸かったまま、試しに手を伸ばしてみる。指先が温泉の「縁」に触れると、不思議な弾力があり、風船のようにぷるんと震えた。どうやら、この温泉自体が何かしらの力によって浮遊しているらしい。
「これってさ、温泉の神様の悪戯とか?」
「そんな伝説、聞いたことないわよ!」
二人が叫んでいると、突然、前方に奇妙な影が見えた。宙に浮かぶ巨大な雲の中から、同じように浮遊する別の温泉が現れたのだ。そして、その湯に浸かっていたのは…
「ようこそ、空の温泉へ!」
壮年の男がこちらに手を振っていた。長い白髪をたなびかせ、風呂桶を片手に微笑んでいる。彼の周囲には他にも数人の裸の男女が湯に浸かっていた。
「な、なんだよこれ…?」
「お前らも招かれたんだな。ここは選ばれし者だけがたどり着く、天空の温泉郷さ」
男は湯船を叩いてにっこり笑う。その瞬間、二人の乗る温泉がふわっと浮き上がり、男たちの温泉と合流するように並んだ。
「いやいや、俺たちただの観光客なんだけど!?」
「そう思うだろう? でもな、温泉というものは、人を癒すだけじゃなく、ときに試すこともあるのさ」
奈々美と康隆は顔を見合わせる。こんな経験、旅行サイトのレビューには書いていなかった。
「ここでは、心の垢を流し、本当の自分を知るんだ。そして、その試練を越えた者だけが、元の世界へ戻れる」
「試練って何よ…?」
男はにやりと笑い、湯の中から金色の酒瓶を取り出した。
「この温泉酒を飲み干せば、お前たちは新たな世界の秘密を知るだろう」
康隆と奈々美は、ぐらりと揺れる湯に浸かりながら、静かに酒瓶を見つめた――。
(終わり…?) 今日のお題は、「温泉に乗る」