No.2849

題名:今日のお題は、「振り向かない夜に」
報告者:ダレナン

(No.2848の続き)
 黄昏が街を包み込み、車のヘッドライトが静かに点る時間。僕は君を送り届け、いつものように車を降りた君の姿を見送る。君は振り向き、何か言いたそうにしていた。だけど、僕はそれに気づかないふりをした。
 「またね。」
 そう言って僕は車に乗り込む。そして、君が家の扉へと向かうのを確認しながら、別れのサインを送った。ブレーキランプを5回点滅させる。それが僕たちの「愛してる」の合図。
 そういえば、そんな歌があったな。懐かしい。だけど、僕たちには特別な意味があった。
 君がドアを開けるその瞬間、何かを言いたげな顔が、ルームミラー越しに映った。君の笑顔の奥に潜む、ほんの少しの不安。僕はそれを無視してしまった。なぜだろう。何かを聞けば、何かが変わっていたのだろうか。
 君の視点からすれば、どうだったのだろう。ブレーキランプの点滅を見つめるその瞳には、どんな想いが宿っていたのか。
 彼女はドアノブに手をかけたまま、足を止めた。暗闇の中で灯る赤い光を、目で追う。5回の点滅。それは、たしかに愛のサインだった。
 でも、彼女の心には言葉にできない違和感があった。
 「どうして?」
 喉の奥で声が震える。君は本当に、今でもそう思っているの?私たちは同じ気持ちのままでいられているの?
 ほんのわずかでも、立ち止まって振り向いてくれたなら。ほんの少しでも、「どうしたの?」と聞いてくれたなら。きっと、違う未来があったのかもしれない。
 彼女は小さく息をつき、ドアを開けた。振り向くことなく、家の中へと消えていった。
 それでも、僕は思い出す。あの帰り際の風景を。君の仕草を。僕たちだけのサインを。
 今でも、君は覚えているのかな。あのブレーキの点滅を見て、何を思ったのだろう。

今日のお題は、「振り向かない夜に」

 
pdfをダウンロードする


地底たる謎の研究室のサイトでも、テキスト版をご確認いただけます。ここをクリックすると記事の題名でサイト内を容易に検索できます。



...その他の研究報告書もどうぞ