No.2780

題名:今日のお題は、「誰もが憧れた時代」
報告者:ダレナン

(No.2779の続き)
 「ほんとの若い時って、わずかなの。」
 彼女はふっと笑って、そうつぶやいた。
 6年前、サリーとして名を馳せた野沢小百合は、輝くような美貌とカリスマ性で多くのフォロワーを魅了したインフルエンサーだった。しかし、今の彼女は違う。SNSの世界から離れ、AI技術を活用した美容の仕事に携わっている。
 「だってさ、劣化、劣化って言われ続けて、ある日ふと鏡を見たら……本当にそう感じたの。だからね……」
 彼女の声には、かすかな苦笑がにじんでいた。そしてスマートフォンを取り出し、懐かしそうに指を滑らせながら、当時の写真を見せてくれた。
 「ほら、これ。当時の私、肌に艶があって、張りがあるでしょう?」
 画面の中の彼女は、確かに眩しいほどの美しさを持っていた。無邪気な笑顔に、誰もが憧れた時代が映し出されている。
 「いろいろと努力はしたんだよ? でもね、年には勝てないの」
 そうつぶやいた彼女の指先は、どこか寂しげだった。
 「でも、今はAIで美容の提案をする仕事をしてるの。こっち(AI)の方はどんどん進化していくのに……私は劣化するばかり」
 その言葉には、どこか自嘲の響きがあった。まるで、美しさを生み出す技術の進化に取り残されたような感覚。でも、彼女の横顔はどこか穏やかだった。過去を否定するのではなく、受け入れているような。
 「でも、今でもきれいだよ」
 僕がそう伝えると、彼女は驚いたように目を瞬かせた。ほんの一瞬、頬が紅潮したように見えた。そして、小さく、小さく、「ありがとう」と消え入りそうな声でささやいた。
 その声は、6年前の彼女のものとも、今の彼女のものとも違って、ただただ心に響いた。

今日のお題は、「誰もが憧れた時代」

 
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