No.2770

題名:今日のお題は、「恋の余韻」
報告者:ダレナン

(No.2769の続き)
 高校二年の春。桜の花びらが舞う休日、僕は同級生の早紀ちゃんと初めてカフェに行った。
 「ずっと気になってたんだ、このお店。」
 彼女は少し弾んだ声でそう言った。
 店内は木の温もりを感じる落ち着いた雰囲気で、窓際の席に座ると、春風がカーテンを揺らしていた。僕はカフェラテ、茉依ちゃんはストロベリータルトを頼んだ。
 「甘いもの、好きなの?」
 「うん。特にイチゴ。」
 そう言って、彼女はフォークで小さくタルトをすくい、口元に運んだ。僕はなんとなく、それをじっと見てしまう。
 「何?」
 「いや、すごく美味しそうに食べるなって。」
 「だって美味しいもん。」
 彼女は笑った。
 カフェを出る頃には、すっかり夕暮れになっていた。橙色に染まる街を並んで歩く。話題はたわいもないことばかりだったけれど、不思議と心が満たされていた。
 「今日は楽しかったね。」
 「うん。また行こう。」
 別れ際、彼女がふと足を止めた。
 「ねえ、手、出して。」
 言われるがままに手を差し出すと、彼女はそっと、手のひらに桜の花びらをのせた。
 「持って帰って、春の思い出にしてね。」
 淡いピンク色が、胸の奥にそっと落ちていくのを感じた。
 「ありがとう。」
 彼女の後ろ姿を見送りながら、僕はそっと花びらを握りしめた。
 それが、僕の初めての恋の余韻だった。

今日のお題は、「恋の余韻」

 
pdfをダウンロードする


地底たる謎の研究室のサイトでも、テキスト版をご確認いただけます。ここをクリックすると記事の題名でサイト内を容易に検索できます。



...その他の研究報告書もどうぞ