No.2709

題名:今日のお題は、「涙のフレーズ:レペティスィヨン・ストーリー」
報告者:ダレナン

(No.2708の続き)
 バンドを組んでいたあの頃、彼女はギターとボーカルを担当し、僕はドラムを叩いていた。バンド名は「レペティスィヨン」。フランス語で「繰り返し」という意味だった。その名のとおり、僕たちの音楽はミニマムな構成で、繰り返しのフレーズを多用したものだった。
 彼女は作詞・作曲のほとんどを手掛けていた。彼女の紡ぎ出すメロディーは不思議と心に残り、いつまでも頭の中で反響した。小さなライブハウスで演奏すると、観客はゆっくりとそのリズムに身を委ね、繰り返されるフレーズに酔いしれていた。
 だが、その夢は突然に終わった。
 ある日の深夜、彼女は致死性不整脈で倒れ、帰らぬ人となった。何の前触れもなく、まるで僕たちの音楽が突然止まるように、彼女の鼓動も止まった。
 彼女がいないバンドは、もはやバンドではなかった。僕はドラムを叩く気力を失い、楽器に触れることすらできなくなった。僕たちが作った音楽は、もう二度と鳴ることはない。
 だが、彼女の声はまだ生きている。僕の部屋の片隅には、彼女が歌った曲を録音したテープがある。カセットデッキにそれを入れ、再生ボタンを押すと、彼女の歌声が流れ出す。夜の静寂の中、彼女の声だけが響き渡る。何度も、何度も。
 繰り返し、繰り返し。
 涙が止まらない。
 それでも僕は再生を止められない。まるで彼女がそこにいるような気がして、もう一度、もう一度と巻き戻しては再生する。僕たちのバンド名のように、終わりのないループの中に僕は囚われ続けている。
 「レペティスィヨン」。
 彼女の歌は、今も僕の中で鳴り続けている。

今日のお題は、「涙のフレーズ:レペティスィヨン・ストーリー」

 
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