No.2665

題名:今日のお題は、「古い写真の向こう側」
報告者:ダレナン

(No.2664の続き)
 久しぶりに物置の奥を整理していたら、古びた箱の中から一冊のアルバムが出てきた。黄ばんだページをめくると、懐かしい顔が現れる。彼女の写真だった。
 何年ぶりだろう。ふと胸の奥が締めつけられるような感覚に襲われる。彼女は笑っていた。あの頃と同じ、無邪気でまっすぐな笑顔で。
 指先でそっと写真をなぞる。もう二度と会うことはないかもしれない。でも、もし偶然どこかで出会ったとしたら、どんな顔をすればいいのだろう。
 「今、どこで何をしているんだろう?」
 その疑問が頭をよぎる。彼女は幸せに暮らしているだろうか。誰かと結婚して、子どもがいたりするのだろうか。そう考えると、自分が過去に置いてきたはずの感情が、静かに胸の奥で疼きはじめる。

——本当は、彼女と結婚したいと思っていた。

 あの時、素直にそう伝えていれば、未来は変わっていたのかもしれない。けれど、ちょっとしたすれ違いが積み重なり、気づけばお互いの間には埋められない距離ができていた。
 「なぜ、あの時もっと正直に向き合えなかったんだろう」
 後悔が波のように押し寄せる。過去には戻れないとわかっているのに、もしもあの時やり直せたら、と考えてしまう。
 「……バカだな」
 苦笑しながら写真を閉じる。今の自分には、妻がいて、家庭がある。幸せなはずだ。それなのに、どうして彼女のことを思い出してしまうのか。
 心のどこかで、彼女が幸せでいてくれることを願う。そして、自分もまた、今ある幸せを大切にしなければならない。
 写真をアルバムに戻し、そっと箱を閉じる。思い出は思い出のまま、静かに胸の奥にしまっておこう。
 けれど——いつか、どこかですれ違ったら。
 その時は、もう少しだけ、素直に微笑むことができるだろうか。

今日のお題は、「古い写真の向こう側」

 
pdfをダウンロードする


地底たる謎の研究室のサイトでも、テキスト版をご確認いただけます。ここをクリックすると記事の題名でサイト内を容易に検索できます。



...その他の研究報告書もどうぞ