題名:リリアーナ・カヴァーニ
報告者:ダレナン
本報告書は、基本的にNo.2141の続きであることを、ここで前もってことわりたい。
沙耶:「ねぇ、平十郎くん」
平十郎:「うん?」
沙耶:「もしここに海の女神が、それは平十郎くんの理想の人だとして、その人が現れたら、平十郎くんは私とその女神とどっちを選ぶ?」
平十郎:「もちろん、沙耶だよ。沙耶に決まってる」
沙耶:「ほんとにほんと?」
平十郎:「うん」
僕は沙耶の胸元から頭を起こし、沙耶の顔を見つめた。沙耶は僕に静かに口づけをした。
その後、二人でしばらくの間、いろいろな話をした。沙耶は僕らの前作の「血塗られた贅肉」の脚本がとても優れていること、そしてその脚本とカメラワークが自分の大好きな映画である「愛の嵐」にとっても近いこと、だから私もシャーロット・ランプリングのように、思い切り自らを二人の下で演じてみたいことを告げてくれた。でも、彼女の周りには誰もその映画の存在を知らず、なんだか寂しかったことも正直に教えてくれた。
僕は、僕で、まさか沙耶から「愛の嵐」のことを聞けるとは思いもよらなかった。僕にとっては、あの映画にある退廃感を映像に残すことがある意味、僕の映像表現の大きな目標だったからだ。
唯一無二の退廃感。
それは夏目と僕との目指したい映画の雰囲気でもあった。
ルキノ・ヴィスコンティが絶賛した倒錯した愛とエロス1)。リリアーナ・カヴァーニ。
例え、それ以外の映画は評価されなくとも、強烈なまでに映画史に永遠に残る作品。誰かに愛される名作。
それが僕たちが目指す表現。
それを聞いて、僕たちがなぜここで出逢った、出逢えたのかとてつもなく分かった。
一つの映画を介して、僕たちの感性は、一つの名作を介して、すべてが通じ逢っていた。
平十郎:「そうだったんだ…」
沙耶:「私も知らなかった…」
1) https://ja.wikipedia.org/wiki/愛の嵐_(映画) (閲覧2021.9.17)