No.2116

題名:僕の頭の中はクリアーに
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.2115の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 ここ数回の電気けいれん療法によって、僕は幾分以前に比べて随分と変化してきているのが分かった。思考能力もまともになり、入院前に迷惑をかけた妻の美幸のことも心配できるぐらいに回復していた。そして花見医師から閉鎖病棟から開放病棟への移行について説明を受けた。

「最近、八度さんの状態が良いようですね。はっきりと電気けいれん療法の効果が出てきているようです」

 花見医師にそう言われた。そのことを今もはっきりと覚えている。それは、僕の記憶する能力も回復していることを意味していた。

「はい、ありがとうございます」と僕は力強く返事した。

 そして僕は、花見医師に「今の状態のままであれば、近いうちに閉鎖病棟から普通の病棟に移ることが出来ます」と診断後にそうおっしゃってくれた。さらには、開放病棟に移れば、美幸との面会等も以前のように限られたものでなくなるらしい。そのことも教えてくれた。閉鎖病棟で過ごした期間は、特に最初の頃は本当にまったくというほど記憶にない。でも、今、僕の頭の中はクリアーになっていた。長かった2年以上の空白がようやく埋められようとしていた。
 (僕にはまともになるきっかけが、今、与えれている)

 その後、1週間ほどで僕は開放病棟に移ることが許可された。段々と自分が元の状態、いや元ではないだろうが、しかしながら、ある山を乗り越えたかのようなそんな状態に、僕の心は変化していた。
 それと同時に、僕はなんだか花見医師が以前とかなり違う人に変化しているようにも思えた。率直に花見医師にそのことを尋ねた。すると、

「最近、ちょっと疲れていてね。八度さんにこんなことを伝えるのも医師としてどうかと思いますが…」

と彼は話を切り出しながら、その後にいろいろな話を聞くことができた。
 その中では、花見医師のかつてのアメリカ時代にあった出来事や、花見医師が精神科医を目指した理由でもあるpatient O.T.のことも教えてくれた。そして、「私は現役の医師としてそろそろ引退しようかと考えている」ことも教えてくれた。それは、

「私にとって、あなたが最後の患者になるかもしれない…」

ということでもあった。

 
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