題名:心の帝に。こくりと頷いた。
報告者:ダレナン
本報告書は、基本的にNo.2100の続きであることを、ここで前もってことわりたい。
強烈なまでのオムツ内の生温かさとしょーべんに臭いが僕の嗅覚を通して聴覚を刺激していたのかもしれない。今となってはそう思えた。
あの時、ネコやイヌの会話がすべて聞き取れた。しょーべんが止まなかった2、3日の間だけだったが、僕には彼らの会話の一切が聞き取れたのだった。
1週間後に学校へ行くと、黒板に<しょーべんたれまもる>と書かれてあった。みんな僕を見るたびに、くせ―、まもるあっちいけよ、しっしってな感じで、僕はみんなから嫌われた。学校の帰りも独りでぽつんと帰った。中には僕に石を投げる者もいた。
でも、僕は知っている。
そのおかげで、僕には動物の声を聞き分けることができる特殊能力が備わったことを。
そして、何よりも大人になってから…
(思い出した。僕はイベント会社を設立して、動物関連のツアーを組むと必ず成功したんだ。そっ、そうだ、これも思い出した。僕の会社での相棒は矢田部だ。矢田部圭史だ)
身体を拘束され、ベッドに横になっていると次第に心の帝にいろいろなことが思い出された。
そういえば、妻の美幸に出逢ったのも動物ツアーがらみだった。矢田部の知り合いの看護師さんが持ちかけたツアーの計画に妻も参加していたことを思い出した。
(美幸、いろんなことがまともになってきたよ…)
その日、花見医師は再び妻の美幸を呼び、現在の僕の症状について話していた。
「八度さん。夫のまもるさんの事ですが、昨日に顔を指で引っ掻く自傷行為がありまして、さらに看護師に対しての暴力行為も見られました。そのため、現在、身体を拘束させて頂いています。やむを得ない処置でした。そのため、まもるさんは今、非常に危険な状態にあり、しばらく面会することができない状態です」
妻の美幸は、花見医師の言葉にこくりと頷いた。
「ただし、少しずつですが電気けいれん療法の効果も出ている可能性があります。そのため、これをしばらく続けることにします。それでよろしいでしょうか」
妻の美幸は、花見医師の言葉に再びこくりと頷いた。