題名:同期が、動機となって、動悸させられている。
報告者:ダレナン
本報告書は、基本的に No.2010の続きであることを、ここで前もってことわりたい。
僕の心臓は天の貢ぎによりエナイさんに取り込まれ、僕の魂は果てしなく祖父と同期していた。僕にはもはや心臓はない。ということは魂もない。でも、祖父の元に僕の魂が取り込まれ、そしてその時の状況に同期して激しく揺れていた。僕はもうすぐ死ぬ。でも、僕はもうすぐ祖父から魂をもらう。そういう契約がエナイさんを介して、取り交わされていた。
死の交換だった。
段々とガス室のガスの濃度は濃くなる。皆一様に、息ができないくらいに、せき込んでいた。バタバタと倒れていく。彷徨う意識がふわふわとガス室内に漂う。そのうちに、次第に倒れて重なりあい、少しでも息を保とうと努力する。でも、呼吸ができない。呼吸ができない。次第に意識が遠のく。それは、宙に彷徨う。激しい苦悩の後に、次第に意識の姿・形が目の前から消滅してゆく。一つ、二つ、そして三つと消失する。次は僕の番だろうか。次は僕の番なのだろうか…。僕の意識も漂っているのが見える。
愛しいトミヨの声が聞こえる。イサクの泣き声も聞こえる。そして、時空を超え、僕はまだ見ぬミチオに伝言した。
「トミヨと逢わせてほしい。トミヨと…。もう一度だけでいい。トミヨと逢わせてぽしい」
その後に頭の中の声が途絶えると、僕は覚めた。僕の横にはメガミ・エナイさんが微笑んでいた。りどるもにこにこして、赤いぺろぺろ飴ちゃんをなめていた。僕は血で滴っているはずの自分の胸を見た。
そこは何も変化がなかった。胸を触ると開胸もされてはいない。ただ、そこにあるのは、いつもの僕の胸だった。血も滴っていなかった。
「”またたびシュ”で、ちみは、だいぶきちゃったにゃん。だいじょうぶ…にゃんか?」
「たぶん大丈夫」
といいつつも、りどるの声の方を、もう一度りどるの姿を確認すると、今度はその姿があまり見えない。どうやら片目の視力が極端に落ちている。そして、見えない方の目を閉じて、見える方の目でりどるの姿を見ると、少しずつその姿(図)がはっきりしてきた。りどるは、またもや変化(へんげ)している。
いや僕の神経がスマホ内部で巧妙にコントロールされている。すべての同期が、動機となって、動悸させられている。
図 その姿1)
1) https://www.pinterest.jp/pin/352758583311051273/ (閲覧2021.3.29)