題名:生まれる前のたまご
報告者:ダレナン
本報告書は、基本的に No.1957の続きであることを、ここで前もってことわりたい。
こけっこーとは鳴かずに、くっくどぅーどるどぅ、と、とてもなじみのある鳴き声で鳴いたそのおもちゃの黄いヒヨコは、かつての僕のことを思い出した。
その出来事が本当にあったのか? だから、それは現実だったのか、それとも幻想だったのか、厳格だったのか、幻覚だったのか、原核か?
まるで生まれる前のたまごだった。核に包まれ、それすらわからない今の状態でも、くっきりと思い出せる奇妙な夢。占い師の予言。
牛の周りを黄色い小さな物体がぴょこぴょこと動き回るヒヨコ。ヒヨコの胸の名札、くっくどぅーどるどぅ。
片やこけこっこーのニワトリがヒヨコをビンタし、彼は「でも、ぼきゅには、できにゃい」と叫んだ。そして、ヒヨコの頬は、真っ赤に腫れあがり、泣きながら銃を構えていた。
その状況、泣いている。
彼がニワトリになっても、彼はずっとくっくどぅーどるどぅ、と泣いていた。名札も変わらない。ニワトリに成長しても、ヒヨコのままだった。そうだ、ひよっこだったのだ、僕は…。
「ねぇ、ほら見て。お腹が動いている」
シズコは僕の手を取り、お腹にあてた。確かに動いていた。
随分と、彼は、大きくなったものだった。
シズコが、「赤ちゃんができてた」といってからあれから4か月経過していた。少しシズコのお腹も明らかに大きくなり始めていた。
シズコの様子も随分と変わった。いい意味でにこやかになった。大きくなるお腹をさすりながら、いつも嬉しそうだった。よく鼻歌もよく聞こえた。そうだ、彼女は少しずつお母になってきている。僕はひよっこで、お父の自覚は未だないにもかかわらず、ましてやお父としての初心者マークすらついていない状況なのに。
それがおとんか、おとんの存在って何だろうか。
それでも僕は、やがて生まれてくる子、オスカルに期待を抱いていた。
それはクミちゃんとは違う。
ワカモト・オスカルじゃない。
シズコのオスカルだ。
それはタケヒサ・オスカルだ。
シズコのお腹に手を当てるたびに、僕は心の中でつぶやいた。
(オスカル。3歳になったらブリキの太鼓を買ってあげるよ。きっとだ。それは君に大いなる能力をもたらすことになる。期待してくれ、タケヒサ・オスカル)
そう念じると、胎動が盛んになってくる。そんな気がした。シズコもその様子に、
「ダリオくんが手を当てると、オスカルくん、とても喜んでいるみたい」
と言ってくれた。