No.1951

題名:平穏な日々
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的に No.1949 の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 契約されていない魅力で、運命的な繋がりがあっても、その子と逢わない状況が 3 年以上続くと、僕にはその子ども、オスカルが、僕の子どもだとはまったく実感がわかなかった。
 逢えない。抱けない。
 だから、僕としては、いつもと同じような生活が続く。でも、シズコの方は段々と見るからに精神的な落ち着きを取り戻していた。それは、彼女がお父としてオスカルに逢っているからなのだろうか。時折、「これ、オスカルくんへのプレゼントなのよ」と見せてくれるおもちゃには、シズコの、オスカルへの愛情が溢れている。きっと、クミちゃんともうまくやっているのだろう。ほんとおとんなんていらねー、そう思えた。
 でも、やっぱり今でも思うのだ。
(オスカルって、本当に僕の子どもなの?)
(うん、間違いない。それ以外、ありえない。だって、あの時、わたしにはタケヒサさんしか見えなかった。見てなかった。タケヒサさんが大好きだったのよ。それでも疑ってるの?)
(そうじゃないけど)
(じゃぁ、わたしを信じてほしい。あなたの子よ、オスカルは…)
 幻覚でも、愛に対しても厳格だったクミちゃんなら、やっぱり僕には信じることが疑ってはいけなかった。彼女は、僕に嘘はついていない、と、いうことを。そこで、クミちゃんに再び問うてみた。
(愛の秩序は保たれているのかな?)
(あなたが、クミに逢わなければね…)
 今度は、僕の頭の中のシズコがそう答えた。こっちも明らかに厳格だった。
 幻覚でないシズコに対して僕は、エイヒレをあぶってあげた。で、それをあげた。油ではない。give だ。
 そんなの分かるわい、という読者さまの声も聞かれたので、あえて注釈したい。それは give であり、揚げたわけではない。あぶったのだ。でも、まずいことにそのあぶったエイヒレに沿うべく相棒のマヨネーズが切れていた。(なんで俺様がいないねん)ってな感じに。
(マヨネーズがない…。やべぇ)
 最悪の状況だった。
「ごめん、マヨネーズが切れてた」
「いいよ、別に…」
 シズコにエイヒレを差し出すと微笑みながら、そう答えた。僕には、マヨネーズがない事態が妙に堪えてい
たが、意外と答えた。意外と簡単に、いいよ、と応えた。
 ほっとした。
「シズコ…。明日、マヨネーズ買ってくるよ」
「お願いね」
という心地よい返事が返ってきた、シズコとも随分と平穏な日々が還ってきたことが、ここで実感できた。僕がクミちゃんに、そしてオスカルに逢わなければ、この平穏な日々が変わることなく続けることができるんだ。

 
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