題名:既読…、
報告者:ダレナン
本報告書は、基本的にNo.1897の続きであることを、ここで前もってことわりたい。
新幹線には何のトラブルもなく、僕を東京駅から高崎駅まで運んでくれた。でも、トラブルがあったのは僕自身だった。何もかも失われ、そこにあるイメージもなくなり、僕はただボー然としてプラットフォームで時間を過ごしていた。仕事でのフラッシュバックも、またもや、頭の中で反芻された。
なんども「うるせーわ。おめえはよ。きさま、しね。しね。しんじまえ。しね」と頭の中で過った。その声に呼応するかの如く、コピー機が何度も何度も同じものを印刷している様子もフラッシュバックした。それに合わせるように、新幹線駅構内のプラットフォームには、乗って、降りて、乗って、を繰り返す人々が見えた。
コピーと人々。繰り返し、繰り返す。
印刷のような人生。
本当に、繰り返している。そこには、同じ光景の繰り返しで、Canonのコピー機が排出する用紙と全く変わらない様相が現れていた。
そうだ。人生なんてたかだかコピーに過ぎない…。文章もそうだ。誰かに影響を受け、それに準じて僕もさもその恩恵に権威のようにふるまっている。でも、それはコピーだ。劣悪なコピーだ。そんなにコピーする・しているだけの人生を、何を急いで、どこに行くのだろうか。彼らは…、そして、僕は…。
僕は、しばらくプラットフォームで行きかう人々の光景をずっと眺め続けていた。
僕が存在しているこの時間帯には何か意味がある?
そう思える日々は、来るのだろうか?
その愛の痛みに耐えながら、けだるいサックスが鳴り響く中、僕は、Gabriel Yaredに恋した。才能とは、こういうこと何だろうと…。そして僕は、自分の執筆に対してふがいなさを感じながら、重い足取りで改札口に向かった。
次に高崎駅からJR上越線 大前行に電車を乗り換え、渋川駅まで向かった。
駅には平日にも関わらず、それなりの人波が見えた。
(ここから先はどうしようか?)
(シズコは本当にここに居るのだろうか?)
とりあえずバスの3番乗り場に向かい、伊香保温泉行のバスを待った。バスを待っている間、シズコへのLINEを確認した。
既読になっていた。既読…、
(たぶんシズコはここに居る)、そう確証した。
バスに乗ると、キーボードと同じようにカタカタと音を発しながらバスが進んでいく。次第に木々の色濃い緑に覆われるようになり、遠くには虹も見えていた。そして、開けたところに、温泉街が現れた。
「終点の伊香保温泉、伊香保温泉でございます…、お忘れ物、落し物がございませんよう…」
終着点での、「ようこそ伊香保温泉へ」の看板も見えた。着いた。シズコが居るはずの温泉地に。