題名:思い出そうとしても、想い出がない
報告者:ダレナン
本報告書は、基本的にNo.1847の続きであることを、ここで前もってことわりたい。
嫉妬しとんのか? と問われれば、そうかもしれないし、そうでないかもしれない。その間もハイパーループ・カプセルは、Subway Trainのように静かに滑らかに進行し、「まもなく第1ドームの新新時代のノアの箱舟の館に到着します」とアナウンスを告げた。
プシュ―。カプセルのドアが開いた。カプセルの外からすこしかび臭い匂いが漂ってきた。明らかに第3ドームとは異なる種類の匂いだった。空気そのものがかび臭い。
トンネル内の空気清浄機もカタカタと音を立てて動いていた。僕は、そこに経年変化を感じ取ることができた。キーコさんが言っていた通り、第1ドームは相当に古い。古くて臭かった。
ツキオ:「さっ、降りるで」
僕とツキオはカプセルから抜け、プラットフォームに降り立った。あれっ、キーコさんがいない。
僕:「キーコさんは…」
ツキオ:「第1ドーム内は3Dホログラフィの最新設備がないねん。だから、消えてまうねん。キーコは…」
ツキオは悲しそうに語った。あまりにもリアルで、現実に居るように思っていたキーコさん。幻だったとは。3Dホログラフィのキーコさん。リアルすぎる3Dホログラフィのキーコさん。
それでも世界は廻り、The World Spinし、ツキオはキーコさんを求めるように、
愛よ 行かないで
この道を戻ってきて
戻ってきてそばにいて
いつまでも永遠に
と唄っていた。
ツキオ:「もしかして、キーコの事、本物かと思ってたんか?」
僕:「はい」
ツキオ:「そっか。そうやな。無理もないわな。リアルやもんな。わいもそうやったらええなと思うてても、もうキーコは、ここ月の世界にはおらへんのや。ふっと、データだけ残して消えてしもーたんや。わいの前から、わいのせいでな。だから、どんなにリアルな3Dホログラフィかて、生身のキーコとちごーて、わいの求めるような反応しかせえへん。つまりはな…、わいの記憶の中にあるキーコのまんま。思い出そうとしても、想い出がない。時間とともにそれは消えてゆく運命にある。悲しいもんやで」