題名:しあわせだった貝?
報告者:ダレナン
本報告書は、基本的にNo.1652の続きであることを、ここで前もってことわりたい。
ハルミさんが来た方向は、どうやら海に面しているところに近かった。ぼくの方はといえば、湖に面しているところに近かった。ハルミさんがひらひらと舞い踊れるのは、もしかすると海の波に影響を受けているからなのかもしれない。泥だらけの自分の体を見ながら、その踊りを見て、入水管からプハーっと息をした。ヒトの感じでいえば、それは、ためいきになるのだろうか。そのうち、ハルミさんは、
「カツオくん、一緒に踊ろうよ」
とぼくを誘った。
泥の中で育ったぼくは、まるで踊りなんか分からない。でも、貝なのに、ヒトのように水中をひらひらと舞い踊っているハルミさんは、しじみというよりも、人魚姫そのものだった。
次の日も、その次の日も、ハルミさんと踊った。黒い貝殻のぼくでさえ、その貝殻の色が赤く染まっているんじゃないか、と思うくらいに、ぼくは赤面していたに違いない。
次第に、ぼくはハルミさんに恋していた。海の方からやってくるハルミさんは、潮の香りがして、心地よかった。もう、ぼくは、泥の中で、じっとうずくまっている必要はない。この海と湖が出逢う場所と同じように、ハルミさんとぼくは出逢うべくして、出逢ってしまったのだから…。
「カツオくん、だーぃすき♡」
「ぼくも、ハルミさんのこと、だーぃすき」
「しってた?」
「うん、しってた。もちろん」
気がつくと、二つの貝の入水管がたまたま触れ合った。それはヒトの感じではこうなのだろうか(図)。それは、しじみにしか分からない。でも、その時のしあわせ感は、読者さまに「しあわせだった貝?」と問われれば、「そうだよ」と答えることが出来る。
図 その時1)
(読者さま:ほほー、こういう展開で、きたかー)
1) https://www.pinterest.jp/pin/309129961896985461/ (閲覧2020.3.4)