No.1653

題名:しあわせだった貝?
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1652の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 ハルミさんが来た方向は、どうやら海に面しているところに近かった。ぼくの方はといえば、湖に面しているところに近かった。ハルミさんがひらひらと舞い踊れるのは、もしかすると海の波に影響を受けているからなのかもしれない。泥だらけの自分の体を見ながら、その踊りを見て、入水管からプハーっと息をした。ヒトの感じでいえば、それは、ためいきになるのだろうか。そのうち、ハルミさんは、

「カツオくん、一緒に踊ろうよ」

とぼくを誘った。
 泥の中で育ったぼくは、まるで踊りなんか分からない。でも、貝なのに、ヒトのように水中をひらひらと舞い踊っているハルミさんは、しじみというよりも、人魚姫そのものだった。
 次の日も、その次の日も、ハルミさんと踊った。黒い貝殻のぼくでさえ、その貝殻の色が赤く染まっているんじゃないか、と思うくらいに、ぼくは赤面していたに違いない。
 次第に、ぼくはハルミさんに恋していた。海の方からやってくるハルミさんは、潮の香りがして、心地よかった。もう、ぼくは、泥の中で、じっとうずくまっている必要はない。この海と湖が出逢う場所と同じように、ハルミさんとぼくは出逢うべくして、出逢ってしまったのだから…。

「カツオくん、だーぃすき♡」

「ぼくも、ハルミさんのこと、だーぃすき」

「しってた?」

「うん、しってた。もちろん」

 気がつくと、二つの貝の入水管がたまたま触れ合った。それはヒトの感じではこうなのだろうか(図)。それは、しじみにしか分からない。でも、その時のしあわせ感は、読者さまに「しあわせだった貝?」と問われれば、「そうだよ」と答えることが出来る。

図 その時1)

(読者さま:ほほー、こういう展開で、きたかー)

1) https://www.pinterest.jp/pin/309129961896985461/ (閲覧2020.3.4)

 
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