No.130

題名:マイクロチップ上のノイズは意識となりうるか?
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.129の続きであることを、ここで前もってことわりたい

 コンピューターとヒトの脳を明確に分けている理由の一つとして、マイクロチップなどにおける集積の規模や処理の速度の違いをNo.129で挙げた。また、その違いが少なくなった例として、IBMのスーパーコンピューターの「ディープブルー」が、1997年にチェスの王者であったゲイリー・カスパロフ氏に勝ったことも報告した。ここでは、その集積の規模や処理の速度の違いだけではないコンピューターとヒトの脳の違いについて論じたい。
 コンピューターとヒトの脳は、No.129で述べたようにON or OFFの装置である。しかしながら、そのON or OFFにおける信号の流れの大きな違いとして、ヒトの脳はニューロンの繋がりにおいて生物的に冗長性があるが、コンピューターの人工ニューロンの結合は、機械的に頑強性があることになろう。その頑強性があるために、コンピューターはヒトの脳を超えることはできないと長らく指摘されていた。しかしながら、スタンフォード大学のアンドリュー・ニグ博士とGoogle社の開発によって進められた、ヒトの脳の階層性を模擬したDeep Learning手法と言われる人工知能の技術によって、それが打破された。この手法によって、人工ニューロンの結合は、柔軟性を持つこととなり、これがTechnological Singuralityを現実可能のものとした。しかしながら、柔軟性は有したが、ヒトが脳の活動の発端となる意識の座は、ヒトの脳でも明らかにされていない。そのため、この意識が今後の人工知能を有するコンピューター上でももたらされるかが、次の新たな疑問となる(No.116)。すなわち、

「Technological Singuralityを越えた時点で、人工知能は意識を獲得できるのか?」

その意識の座は、先の「ディープブルー」の例でもあったように、バグにもあるかも知れない。しかしながら、バグはコンピューターに特異な進化をもたらしたと言えども、それがコンピューターの意識化の元とはならないであろう。なぜなら、バクは処理の経過で変化させるのであって、それ自体でコンピューターが目覚める訳ではないからである。それでは、コンピューターの意識化は何によってもたらされるかと言うと、著者はノイズにきっかけがあると考えている。ケンブリッジ大学のダニエル・ウォルパート博士は、動作からの脳の存在理由を検討し、ヒトの柔軟で複雑な動きをもたらしているのは、実はノイズが根底にあることを説明している。すなわち、ヒトにとってノイズは有害ではなく、有益なのであり、これがヒトの冗長性となる2)。
 現時点で、マイクロチップなどにノイズが混入すれば、明らかに誤動作となり、機械的にはストップすることは間違いない。しかしながら、マイクロチップ上でもしこのノイズがノイズでなく、何らかの信号として特別の認識ができるようになれば、それがコンピューターの意識化になるのかもしれない。無意識下のゆらぎ(ノイズ)は、ポテンシャルを別の次元へと躍進させる(No.50)。

1) http://gendai.ismedia.jp/articles/-/38434 (閲覧2015.12.25)
2) https://www.ted.com/talks/daniel_wolpert_the_real_reason_for_brains?language=ja#t-200552 (閲覧2015.12.25)

 
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