題名:ハトの「ちょーだい攻撃」から考える、ヒトの欲望性への言及:そのⅡ
報告者:エゲンスキー
本報告書は、基本的にNo.1100の続きであることを、ここで前もってことわりたい。
ハトが”やたら”欲しがるのは、エサであり、その原因はヒトがハトにエサを与えるといった所業にあることに気づいた。そして、その背後には、ハトの生死に纏わる苛酷な運命と、単なる餌「ちょーだい」レベルが、「エサくれよー」への「攻撃」レベルへと変わることで、ハトは「Attack of the Pigeons」へと至る。その可能性についても、先の報告書にて論じた。ただし、ハトが欲しがるのは、純粋にエサのみである。ヒトも、人となりし人類の事始めの前には、かつてエサを純粋に欲しがる動物であったことは、容易に理解できる。しかしながら、やがてヒトが欲しがるのが、それだけですまなくなることで、ヒトは人へと生まれかわった。
精神分析のラカン派において、ロマンス語系の言語学ないし文学の研究者の地位を占めていたヘンリー・W・サリヴァン氏(博士かは不明であったことから氏とする)の論文を詳細に検討した滋賀大学の黒石晋教授1)によれば、そのサリヴァン氏曰く「知性のヒトHomo sapiensが存在する前に、欲望するヒトHomo desideransが存在していた」ことを言及している。ここで、欲望、の意味が大事になるが、ラカン派(ラカニアン)では「永遠に失われた見果てぬ〈モノ〉を追求する奮闘を、〈欲望〉」としている。そこにおいて重要な次元が三つあり、それが、現実界、想像界、そして、象徴界である1)。そして、その三つの領域が絡まりあって重なり合うトポロジー構造を「ボロメオの結び目」として1)、フランスの哲学者で、精神科医・精神分析家であったジャック・ラカン博士2)は定義した(図)。ジャック・ラカンはその名の通り、ラカン派の始祖である。ラカン博士によれば、その「ボロメオの結び目」の最中心に〈欲望〉の原因、が位置する(図のaに相当)。ちなみに、図のR:現実界、I:想像界、S:象徴界を意味し、JA:身体の享楽、JΦ:身体外の享楽、sens:意味の享楽となる4)。なお、文献1)にも示してあるが、大阪芸術大学の伊藤正博准教授5)によれば、その中心に位置する〈欲望〉の原因を「もの」であるとし、その「もの」自体は物自体というよりも、むしろ超越論的対象として位置づ
図 ボロメオの結び目3)
けている。それは、報告書のNo.1010でも示されているような精神(概念)的な物としてのひらがなによる”もの”と同じような意味合いがあろうか。あるいは、報告書のNo.1023でも示されていたような、ドーナツの内部の「穴」に相当する「空」かもしれない。そして、ここでハトに生まれ変わってそれを考えると…、としたところで、紙面がつきそうな気配がした。そこで、そのⅢでもって、ハトに生まれ変わった視点から、ヒトへとなりすましたハトの〈欲望〉でもって、ヒトの欲望性について考察したい。
1) 黒石晋: 「知性のヒト」か「欲望するヒト」か –人類進化における欲望の役割- ヘンリー・W・サリヴァン論文をめぐって. 滋賀大学経済学部Working Paper Series 274: 1-13, 2017.
2) https://ja.wikipedia.org/wiki/ャック・ラカン (閲覧2019.3.2)
3) http://dame-licorne.pagesperso-orange.fr/VERSION%20LONGUE/29a-%20le%20syndrome%20de%20la%20dame.html (閲覧2019.3.2)
4) http://kaie14.blogspot.com/2018/11/blog-post_8.html (閲覧2019.3.2)
5) 伊藤正博: 昇華と倫理. 大阪芸術大学紀要 21: 91-100, 1998.