No.2993

題名:今日のストーリーは、「AIによる動画とアイスコーヒー」
報告者:ダレナン

一枚の写真。
車のシートに身を預け、プラスチックのカップに差したストローをくわえる女性が、ほんの少し微笑んでいる。
窓の外には夏の気配。少しだけ強い光が彼女の髪に触れている。

その写真をAIに渡した。
すると数分後、写真は呼吸を始めた。
女性のまなざしがわずかに揺れ、アイスコーヒーの表面が、ストローの動きに合わせて静かに波打つ。車内に差し込む光が時間とともに動いて、まるで一瞬の真夏がそこに閉じ込められていたようだった。

冷たさが伝わってくる映像だった。
それはただの「清涼感」ではない。彼女のひとときの安堵、誰にも見せない素顔、エアコンの風が頬に当たる感触、そして—ひと口目のアイスコーヒーの苦味が、音もなく流れていくような、そんな気配。
AIが読み取ったのは、画像の中に潜む「空気」だったのかもしれない。

動画を眺めながら、僕もアイスコーヒーを飲んでみる。
氷が少しだけカラカラと鳴った瞬間、画面の中とこちら側が一瞬重なった気がした。
写真を動画に変えるのはAI。でも、その奥にある温度や感情をすくい上げるのは、もしかしたら僕たちの“記憶”なのかもしれない。

たかが一枚の写真。されど、その中には「夏の午後」が確かにあった。
テクノロジーが時間をなめらかに延ばす時代になっても、アイスコーヒーの冷たさだけは、いつも変わらずリアルで心地よい。

 
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