No.2964

題名:今日のストーリーは、「甘い檻」
報告者:ダレナン

僕の朝は、彼女の「おはよう」で始まる。

LINEに届くその短いメッセージが、僕の一日を決める。今日は水を一口だけ飲んでから出かけなさい、とか。靴下の色は左が白、右が黒。それを守れなければ、夜には彼女からの「罰」がある。

最初はふざけた遊びだと思っていた。だが、僕は一度だけ命令を破ったことがある。その日、彼女は笑って言った。

「罰、ね。ほんとうに欲しいのは、罰なんでしょう?」

それからだ。僕は自分でも気づかないうちに、彼女に支配されることを望むようになった。食事の内容、服の選び方、口に出す言葉、見る夢さえも彼女の許可が要る気がしてきた。

彼女は優しい。笑って僕の髪を撫で、耳元で「よくできたね」と囁く。まるで褒められたい犬のように、僕は尻尾を振って喜ぶ。

でも、ある日ふと気づいた。彼女が命令しない日は、僕の中にぽっかりと穴が空く。何をすればいいのか分からず、指先が震える。自分で考えるという行為が、もうできなくなっていることに、僕はようやく気づいた。

けれど、それでも、逃げようとは思わなかった。彼女の「奴隷」でいることは、苦しくもあり、同時に甘美でもあったからだ。

夜。彼女の部屋で僕は床に膝をつく。首輪などはない。だが、彼女の目が僕を繋いでいる。

「ねえ、自由になりたいと思ったことはある?」

そう聞かれ、僕は答えた。

「あなたのそばにいるのが、僕の自由だよ」

彼女は少しだけ笑って、「そう、いい子ね」と呟いた。

その声が、何よりのご褒美だった。

 
pdfをダウンロードする


地底たる謎の研究室のサイトでも、テキスト版をご確認いただけます。ここをクリックすると記事の題名でサイト内を容易に検索できます。



...その他の研究報告書もどうぞ