No.2915

題名:今日のお題は、「ありがとう」
報告者:ダレナン

(No.2914の続き)
ずっと逢いたかった。
けれど、どこにいるのかもわからず、どうやって逢えばいいのかさえ見失っていた。
君の声も、君の笑顔も、思い出そうとするたびに遠ざかってしまう。
それでも、逢いたい気持ちだけは、胸の中でずっと灯り続けていた。

そんなある晩のことだった。
僕は仕事に追われて、心も体も擦り減っていた。
深夜、灯りを消してベッドに沈み込んだとき、ふと、あの懐かしい香りがした。
それは、君の匂いだった。春の終わりと、雨上がりの午後と、誰かのやさしい声が混ざり合ったような。

気づけば、僕は夢の中にいた。
そこは、昔二人で歩いたことがあるような並木道だった。
風が揺れて、木漏れ日が柔らかく頬を撫でる。
そして、君がそこにいた。変わらぬ笑顔で、僕を見ていた。

「ずっと、ここにいたんだよ」 君はそう言った。
その声が、僕の胸の奥にしみわたった。

僕は何も言えず、ただ君を抱きしめた。
君の体温は、ちゃんとあって、やさしくて、あたたかかった。
まるで世界がすべて君の腕の中に溶けていくみたいだった。

そして、君の胸の中で、僕はすうっと眠った。
その瞬間が、今までの人生で一番、安心できたんだ。

朝、目が覚めると、頬に涙がひとしずく落ちていた。
でも、心は不思議なほど軽く、晴れやかだった。

君に逢えた。たとえ夢でも。
君に抱かれて、眠れた夜。
そのぬくもりは、今も僕の中に残っている。

ありがとう。 君は、僕にとってずっと――特別な存在だ。

 
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