No.2911

題名:今日のお題は、「せっかく見たのに「う~ん、どうなの、これって」って思た映画『チャイコフスキーの妻』にまつわる2、3の話題 Part2」
報告者:ダレナン

(No.2910の続き)
話題2:映像美と不快感が同居する――ソクーロフ監督の手腕
アレクサンドル・ソクーロフ監督と言えば、視覚的に圧倒される映像詩人。今作も、まるで油絵のような光と影、時に霞がかったようなカメラワークが観る者を“現実から少しズレた場所”へと連れていきます。

ただし、その美しさの中で展開するのは、アントニーナの執着、孤独、そして妄想の世界。映像が美しいほどに、物語の不快さや痛みが際立ちます。
「こんなにも映像が詩的なのに、なぜこんなに苦しいんだろう」――そんな感覚を覚えたなら、それはソクーロフ作品の醍醐味とも言えるかもしれません。

話題3:“愛”が人を壊す――結婚という名の牢獄
アントニーナがチャイコフスキーと結婚したのは、確かに“愛していたから”。けれど、その“愛”は徐々に変質していきます。
愛するがゆえに、相手の心を手に入れたい。関係を断ち切られたくない。自分の存在を認めさせたい――その執念はやがて、狂気へと近づいていく。

映画が描くのは、愛によって人が救われる物語ではなく、愛によって壊れていく悲劇。特に女性にとっての“結婚”が、時代背景の中でどれだけ一方的な犠牲を強いていたか、その視点も本作の裏テーマと言えそうです。

結論:この映画、見どころはあるのか?
あります。ですが、“覚悟”が必要です。
伝記映画としてでも、ロマンチックな愛の物語としてでもなく、“一人の女性の視点から見た幻想と現実の混濁”として向き合ったとき、この映画は静かにその輪郭を現し始めます。

観終わったあとに残る、何とも言えない違和感と虚無感。それこそが、ソクーロフが仕掛けた“問い”なのかもしれません。
答えは簡単には出ませんが、その余韻にこそ価値がある――そう思えたなら、この映画はあなたにとって“意味のある”体験だったと言えるでしょう。

「う~ん、どうなの?」という感想の先に、“ああ、そういうことだったのかもしれない”という小さな灯が灯りますように。

 
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