No.2903

題名:今日のお題は、「翳りゆく午後」
報告者:ダレナン

(No.2902の続き)
 午後の陽が、斜めに射し込んでいた。窓際のカーテンが風に揺れ、淡い影を床に落とす。

 ソファーに沈み込むように座ったまま、私はぼんやりとカーテンの外を眺めていた。薄曇りの空、ゆるやかに揺れる木々の葉。その向こうに広がる世界は、私の気持ちを映し出すように静かで、物憂げだった。胸の奥に、言葉にならない寂しさが滲んでいく。何かが欠けているような、それでいて満ちることのない感覚。

 特に何かがあったわけではない。ただ、胸の奥に言葉にならない何かが引っかかっている。日々の忙しさの中で、見ないふりをしてきたもの。それが、こうしてふとした瞬間に顔を出す。心の隙間から静かに流れ出す不安のように。

 気づけば、指先でカーテンの端を弄んでいた。その動きすらも、今の私にはやけにゆっくりに思える。まるで、時間が絡まって、ほどけることを忘れてしまったように。

「どうして、こんな気持ちになるんだろう——」

 自分に問いかけても、答えはない。ただ、心に空いた穴を感じる。それは何かを失った後のようでいて、まだ何も失っていないようでもある。けれど、失う前から寂しさを感じるのは、なぜだろう。

 このまま日が落ちれば、部屋の中はさらに陰り、闇に包まれていくだろう。でも、不思議とその闇を恐れる気にはなれなかった。むしろ、静かに包まれてしまえば、少しは楽になるのかもしれない。闇の中なら、輪郭が曖昧になり、考えなくて済む気がした。

 私はそっと目を閉じた。ほんの少しの間、何も考えずにいられたら、それだけで救われる気がした。けれど、その「ほんの少しの間」が、どれほどの長さなのかは、誰にも分からない。

 
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