題名:今日のお題は、「僕たちはオスとメスに」
報告者:ダレナン
(No.2901の続き)
動物園を出た帰り道、彼女と並んで歩いていた。夕暮れの陽が西の空を燃やし、僕たちの影を長く引き伸ばしていた。
「動物って、服を着ていないよね」
ふと僕が呟くと、彼女が小さく笑った。
「そうね。でも、恥ずかしいと思うなら、きっと着てるんじゃない?」
その言葉が妙に胸に残った。恥ずかしい、とは何か。それを意識したとき、僕たちはすでに人間の衣服に縛られているのかもしれない。
「じゃあ……思い切って裸になって試してみる?」
彼女の目が悪戯っぽく輝いた。その提案に僕は思わず息を呑む。無論、冗談のつもりだろう。だが、彼女の声にはどこか真剣な響きが混じっていた。
ちょうど僕たちは川べりを歩いていた。川面には夕陽のかけらが揺らめき、風が優しく草むらを揺らしている。ふと目をやると、背の高い草が生い茂り、視界を遮る場所があった。
「あそこで隠れて裸になろうよ」
彼女が指さしながら囁く。心臓が高鳴った。
僕たちはそっと草むらへと入り込み、互いの気配を感じながら服を脱いだ。彼女の白い肌が、残光に照らされて淡く輝いていた。
身体を覆っていた布がなくなると、途端に空気の感触が敏感に伝わってくる。肌を撫でる風の冷たさ、草のささやき。見えないはずの誰かの視線すら、どこかにあるような気がした。
その緊張と興奮の狭間で、僕の身体は正直だった。
彼女が目を細め、僕の反応をじっと見つめる。まるで新しい動物を観察するかのように。
「恥ずかしい?」
問いかける声が静かに耳をくすぐる。
「……少し」
「動物は隠していなかった」
「そうだね」
彼女の指先がそっと僕の肌をなぞる。その軌跡に身体内に熱い血潮がめぐる。
そうは言っても、彼女の頬もほんのりと朱に染まり、視線が揺れていた。僕だけではなく、彼女もまた、服を脱ぎ去った瞬間の無防備さに戸惑っていたのだろう。
僕たちはしばしの間、互いの存在だけに集中していた。草むらのざわめきが、僕たちの鼓動に重なり合って響いていた。
その瞬間、僕たちは男女というよりも、動物のようにオスとメスになった気がした。