No.2886

題名:今日のお題は、「偽ブレードランナー」
報告者:ダレナン

(No.2885の続き)
 僕はタイレルコーポレーションの巨大なビルの前に立っていた。商談のための訪問だったが、どこか胸騒ぎがする。この会社は最先端のアンドロイド技術を誇り、最新モデル「ネクサス6型」はまるで人間と見分けがつかないと評判だった。
 重厚なエントランスをくぐると、目の前には奇妙な壁画が広がっていた。人間と機械が混ざり合った幻想的な光景。何を意味しているのか分からないが、どこか不安を掻き立てる。案内を待っていると、美しい女性がこちらに歩み寄ってきた。完璧な均整のとれた顔立ち、滑らかな動き、そして冷静な眼差し。

 「はじめまして。私はレイ、タイレルコーポレーションの秘書です」
 名刺を差し出しながら、彼女は穏やかに微笑んだ。
 「君は……ネクサス6型なの?」
 冗談めかして尋ねると、彼女はわずかに微笑み、こう言った。
 「いいえ、私は秘密裏に開発された7型です」
 「7型?」
 「ええ、外部には公表されていませんが、私はタイレルコーポレーションの秘書として開発された特別なモデルです」
 彼女の流れるような口調と、完璧すぎる動きに、僕は思わず感心した。
 「よくできているな……」
 そう呟いた次の瞬間、彼女の表情が変わった。
 「で、あなたは何型?」
 「え?」
 「あなたの網膜には『N6型』と記されています」
 彼女の言葉が脳を揺さぶる。冗談ではない。彼女の目は冗談を言う目ではなかった。
 「僕はアンドロイドじゃない!」
 そう叫び、慌ててトイレに駆け込んだ。鏡の前に立ち、目を大きく見開く。震える手でまぶたを引っ張る。そして、恐る恐る自分の網膜を覗き込んだ。
 そこには、はっきりと刻まれていた。
 『N6型』
 何かの間違いだ。僕は人間だ。ずっとそう信じてきた。
 だが、この刻印は何を意味するのか?
 背後でノックの音がする。
 「大丈夫ですか?」
 レイの落ち着いた声。
 鏡の中の自分を見つめながら、僕はゆっくりと呼吸を整えた。
 僕は……一体、何者なのか?

今日のお題は、「偽ブレードランナー」

 
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