題名:今日のお題は、「色のない世界と感情」
報告者:ダレナン
(No.2817の続き)
朝霧が街を覆う頃、少年は目を覚ました。彼の目に映る世界は、黒と白の二色のみ。色彩という概念を知らぬまま、彼はそれを当たり前のものとして受け入れていた。
この世界では、すべてが灰色の濃淡で描かれている。空は薄い灰、道は濃い灰、そして人々の顔もまた同じ色の波の中に溶け込んでいた。感情すらも白黒の世界では形を持たないように思えた。
ある日、少年は路地裏で一冊の本を見つけた。表紙には「色」という見慣れぬ言葉が刻まれていた。彼が指でページをなぞると、その瞬間、紙の上に鮮やかな赤が浮かび上がった。驚いて本を閉じると、赤は消え、再び白と黒の世界へと戻った。
少年はその夜、本を胸に抱いて眠った。そして夢の中で、彼は初めて「色のある世界」を見た。空は青く、草原は緑に染まり、人々の頬は暖かい桃色をしていた。目覚めたとき、彼の頬には涙が伝っていた。
「色とは、感情なのかもしれない。」
少年はそう考えた。白黒の世界は均一で平穏だが、そこには喜びも悲しみも、愛も絶望もなかった。だが、あの夢の世界には、それらすべてが詰まっていた。
彼は本を開き、再び赤を見た。すると、彼の指先から色が溢れ出し、周囲を染めていった。最初は小さな点だったが、やがてそれは街へと広がり、人々の瞳に映る世界を塗り替え始めた。
その時、少年は悟った。
「色のない白黒だけは、世界の何も表していなかったんだ。」
世界は、感情とともに初めて真の姿を現すのだと。
そして少年は、本の1ページにあった白黒の世界に感情を与えるため、彼女にそっとキスをした。
今日のお題は、「色のない世界と感情」