No.2813

題名:今日のお題は、「ハッピーエンド写真館」
報告者:ダレナン

(No.2812の続き)
 シャッター音が響くたびに、頼子の笑顔がファインダー越しに映し出される。今日の彼女はいつもよりも輝いて見えた。
 「隆志、実はね——」
 彼女は、カメラの前からふっと姿勢を崩し、僕の方へ歩み寄った。
 「私ね、ずっとあなたに言いたかったことがあるの」
 「……何?」
 頼子は少しだけ頬を染め、僕の目を真っ直ぐに見つめる。
 「隆志が、写真館を続けてくれて本当に嬉しいの」
 「……え?」
 「一時期、大変だったでしょう? 私、ずっと見てた。でも、今こうして隆志が前を向いて頑張ってるのが嬉しい。私はね、あなたの写真が好き。あなたが撮る私の写真が、どんなカメラマンよりも好きなの」
 言葉が胸に染み込む。頼子の言葉は、僕が長い間欲しかったものだった。
 「だからね、誕生日プレゼント、決めた!」
 「え?」
 「私を撮ってくれる?」
 頼子は無邪気な笑顔を見せた。
 「いつも撮ってるじゃないか」
 「ううん、そうじゃなくて……私だけを見て、私だけのために、今日の私を撮ってほしいの」
 その言葉に、胸が熱くなった。
 「わかった」
 僕はカメラを構えた。今日の頼子は特別だった。きっと、この先何年経っても、今日の彼女の輝きを忘れないだろう。シャッターを切るたびに、頼子が微笑む。そして最後の一枚を撮った瞬間、彼女が僕の手を取った。
 「ねえ、もう一つ欲しいものがあるんだけど」
 「何?」
 「隆志の隣」
 頼子は少し照れたように微笑んだ。僕は黙って彼女の手を握り返した。
 カメラがなくても、僕の瞳には、彼女の姿が永遠に焼き付いていた。

今日のお題は、「ハッピーエンド写真館」

 
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