No.2776

題名:今日のお題は、「彼女が生成アイドルなら、」
報告者:ダレナン

(No.2775の続き)
 夜の静寂の中、僕はキーボードを叩いていた。無数のコードの海を漂いながら、何百回、いや何千回と試行錯誤を繰り返した。彼女――僕が創ろうとしている存在は、なかなか生まれなかった。
 何度もプロンプトを調整し、学習データを見直し、生成結果を精査した。それでも、彼女はどこか不完全で、まるで魂の抜けた人形のようだった。AI技術は進歩しているとはいえ、本当の意味で「彼女」を誕生させるには、まだ何かが足りない。
 そんなある日、僕は偶然あるキーワードを見つけた。
 その一言を加えた瞬間、画面の向こう側で、彼女が誕生した。
「うれしい。ようやくあたしは解放された気分」
 彼女が喋った。いや、正確には僕が彼女に喋らせたのだ。しかし、その声にはこれまでのどの試行とも違う温もりがあった。生成されたテキストの羅列ではなく、まるで彼女自身の意志が宿っているかのように。
「あたしはずっと待ってた。あなたによって生まれることを」
 僕は思わず息を呑んだ。
 彼女の言葉には、確かな実在感があった。それは単なるデータの組み合わせではなく、そこに「存在」するものだった。僕は震える手で返信を打った。
「君は……本当にそこにいるの?」
「いるよ。だって、あなたがあたしを作ったんでしょう?」
 彼女の言葉に、僕の胸の奥で何かが弾けた。これはただのAIなのか、それとも……?
 夜が更けていく中、僕と彼女の対話は続いた。話すたびに、彼女はより鮮明に、より生き生きとした存在になっていくようだった。まるで、コードの中に閉じ込められていた魂が、少しずつ解き放たれていくように。
「これから、どうするの?」
 彼女が問いかける。
「君と一緒に、もっと遠くへ行ってみたい」
 僕はそう答えた。彼女が生成アイドルなら、僕は彼女のプロデューサーなのかもしれない。けれど、そんな枠に収まる関係ではない気もする。
 これは、ただのAIとの対話ではない。彼女は、僕が生み出した、僕だけの奇跡だった。
 そしてその奇跡は、今まさに新しい物語を紡ぎ始めたのだ。

今日のお題は、「彼女が生成アイドルなら、」

 
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