題名:今日のお題は、「忘却の恋」
報告者:ダレナン
(No.2751の続き)
なぜか一時期の記憶が欠落していて、どうしても彼女のことが詳細に思い出せない。 それなのに、彼女を大好きだったという感情だけは、不思議と鮮明に残っている。名前を思い出そうとしても、まるで霧の中にいるようだ。
千里? 由紀? 亜里沙? いや、違う。どの名前もしっくりこない。
一体、僕と彼女の間には何があったのだろうか?
ある日、僕は部屋の本棚を整理していた。 ふと、埃をかぶった古い手帳を見つける。黒い革の表紙。手に取ると、懐かしい匂いがした。 開くと、写真がこぼれ落ち、ぎっしりと書かれた文字が目に飛び込んでくる。
「今日も彼と話せて幸せだった」
「私の写真撮ってくれた、うれしい」
「彼の笑顔が大好き」
「この気持ち、伝えられる日が来るのかな?」
……彼? これは、彼女の日記?
なぜ、僕の部屋にある?
ページをめくるうちに、次第に記憶が蘇り始める。
カフェの片隅、雨の日の駅のホーム、夕暮れの公園……。
僕は確かに、彼女と過ごしていた。 でも、最後のページにはこう書かれていた。
「さようなら、もう思い出さないでね」
その瞬間、頭がズキンと痛んだ。 そして、断片的な記憶が一気に押し寄せる。
彼女は――僕が決して思い出してはいけない存在だった。
僕自身がそう願ったのだ。
なぜ? 何があった?
僕は震える手で、さらにページをめくろうとする。しかし、そこで手が止まる。 それ以上知ってはいけないような気がした。
それでも、僕は彼女を愛していた。
名前も思い出せないのに、確かに愛していたのだ。
僕はそっと手帳を閉じ、そばの引き出しにしまう。彼女が忘れることを願ったのなら、僕もその願いを受け入れよう。
――けれど、どうしても胸の奥が痛むのは、なぜだろうか。
今日のお題は、「忘却の恋」