No.2732

題名:今日のお題は、「若き日の思い出」
報告者:ダレナン

(No.2731の続き)
 年を重ねると、過去の出来事がふと鮮明に蘇ることがある。それが甘酸っぱい思い出であればなおさらだ。今となっては随分と昔の話だが、こうして筆を執るのも、残された時間がそう多くないと感じるからかもしれない。少々、恥ずかしいのですが。

 あれは私が十九か二十歳のころだった。まだ若く、未来に限りない可能性があると思い込んでいた時代。そんな私に、初めて「恋人」と呼べる存在ができた。唯ちゃん──同じ学部の女の子で、目を引くほどかわいらしく、男子の間でも人気があった。しかし、ある講義で何気なく交わした言葉がきっかけで私たちは急速に親しくなった。

 それはちょうどクリスマスが近いころだった。私は思い切って彼女に告白した。「もしよかったら、付き合ってくれないか?」緊張で喉が渇き、心臓がバクバクと鳴ったのを今でも覚えている。そして彼女は、笑顔で「いいよ」と答えた。その瞬間、世界が輝いて見えた。あんなに幸せな気持ちになったことは、後にも先にもそう多くはない。

 付き合い始めてすぐの年末、二人で旅行へ行こうという話になった。「どこか行きたいところはある?」と尋ねると、唯ちゃんは少し考えて「温泉がいいな」と答えた。僕たちはさっそく旅館を探し、期待に胸を膨らませながら出発した。

 泊まったのは、趣のある温泉旅館だった。雪景色の中、静かな湯けむりが立ち上る風情に心が躍った。大浴場に入った後、部屋に戻ると、唯ちゃんは浴衣姿でくつろいでいた。その姿を見た瞬間、若かった私はどうしようもないほど彼女に惹かれた。今思えば、若気の至りというものだろう。けれども、その夜、湯冷めしないようにと寄り添いながら過ごした時間は、今でも鮮やかに思い出される。

 あれから幾年が経ち、唯ちゃんが今どこでどうしているのかは知らない。私の人生は、あの頃とは比べ物にならないほど静かになった。でも、ふとした瞬間に思い出すのは、あの冬の温泉旅行や、浴衣姿の彼女の微笑み。若かった日の私が、確かにそこにいたことを思い出させてくれる大切な記憶だ。

 こうして回顧録のように書き記すのも、歳を取った証拠なのかもしれない。それでも、あの時の輝きは、今も心の片隅で暖かく灯り続けている。

今日のお題は、「若き日の思い出」

 
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