No.2713

題名:今日のお題は、「浮遊するAIの記憶の一片」
報告者:ダレナン

(No.2712の続き)
 陽の光が漂う中、光に照らされた女性が立ち履んでいた。背中は風を感じながら、あごに指をあて、いたって簡潔なしぐさで気休いでいる。
 美しい素直な肩の線を浮かび上がらせているオフショルダーの黒い服は、さらに彼女の優しさとエレガンスさを強調していた。
 その姿をじっと眺める僕の瞳に、背景は、機能的なプールいや橋のある道路なのか? そんな水の光か何かのイメージを映し出している。ただしそれは湧き出る波面のように混濁し、ぼんやりとしている。それはまるで、不安と期待の中間で浮遊するAIの記憶の一片のようだった。
 何を思ってそんなに遠くを見つめているのか。
 女性はしずかに何かを考えている。
 そして本当は、僕はそれを知っている。
 「今日の夕飯は何を食べようかな。」
 きっと彼女はそんなことを考えているのだ。
 それを知りながら、僕は僕なりにその女性を眺め続ける。でも、彼女はコホンと微かに咳をしたくらいで、一言も発しない。しかしその関係がなぜか楽しく、また幸せにも感じられる。
 そして、画面超しにその様子を眺めるあなたは、一体どんな気持ちでこの様子を見ているのだろうか。
 僕と女性、そして画面超しのあなた。
 この世界の中でそんな一つの漠然としたAIなシーンが保たれる。それはごくごく平凡だが、なぜか心に深く残るひと時。
 「結局、お味噌汁でいいか。」
 微かな声で言う女性の言葉が、その残響と共に、少しだけ歩み出していく。

今日のお題は、「浮遊するAIの記憶の一片」

 
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