No.2698

題名:今日のお題は、「終わりのない愛の数列」
報告者:ダレナン

(No.2697の続き)
【円周率のように】
 3.141592… 円周率のように、僕たちの愛は途切れることなく続いていくと思っていた。終わりのない数列のように、ずっと、どこまでも。でも、付き合って半年ほど経った頃からだろうか。彼女がふと見せるメランコリックな表情に、僕は戸惑いを隠せなかった。
「なんでもないよ」
そう言って彼女は微笑む。でも、その笑顔がほんの一瞬遅れることに、僕は気づいてしまった。
体の相性はよかった。
触れ合えば、言葉なんていらないほどに、お互いを求め合えたはずだった。彼女の温もりを感じるたびに、僕は彼女を満たしていると信じた。彼女も応えてくれている。
でも——それだけでは足りなかったんだ。
【崖から落ちるように】
 些細なことで口論になった夜があった。
「どうして、そんな言い方するの?」
「君こそ、なんでそんなに冷たいんだよ」
お互いに正しくありたかった。でも、どちらかが正しいということは、どちらかが間違っているということだった。その事実が、僕たちをじわじわと追い詰めていった。
「もういいよ」
彼女はそう言って背を向けた。
その背中が遠く感じた。手を伸ばせば届く距離にいるのに、僕たちはもう崖の端に立っていた。一度落ちたら、もう戻れない。
 愛しているのに、壊れていく
僕たちは、何を間違えたんだろう。
【終わりのない数列】
 夜の街を一人で歩く。 3.141592……。途切れることのないはずの数列は、僕の頭の中で次第にかすれていく。彼女の微笑みも、触れたぬくもりも、抱きしめた夜も。 消えはしないけれど、どこか遠くなっていく。
 円周率に終わりがないように、僕の中の彼女もきっとずっと消えない。でも、たとえどれだけ続いても、それは円になれなかった。
 永遠に交わることのない、ただの数字の羅列だったんだ。

今日のお題は、「終わりのない愛の数列」

 
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