題名:びくびくとうごめいている
報告者:ダレナン
本報告書は、基本的にNo.2158の続きであることを、ここで前もってことわりたい。
莉紗はそのまま陸地に上がり、裸足のまま草の上を歩く。後ろから誰かが追いかける。追いかけるのは敦司だ。ただ、そのフレームはかなりブレる。撮影者の気持ちを反映させているかのように。
莉紗は光の方向を見上げ、その後、声を聞く。彼女は声のする方向を向く。そこに敦司がいる。莉紗は私についてきてと言わんばかりに、再び歩きはじめる。敦司はそれについてゆく。
しばらく歩くと、目の前に少しづつ洞窟が見え始める。洞窟は大きく口を開け、ぴゅーぴゅーと呼吸しているかのように、音がする。
莉紗と敦司はその中に入る。
二人は洞窟に入り、入り口付近の平らな場所に座る。二人の目の前に洞窟の中を流れる川が見える。その川に、天井から滴り落ちるしずくを一定の音を発している。
しばらく無言の二人。
しずくが時を刻む。
その後、莉紗が、しずくが、時を奏でる湖面を見つめている。
敦司は沙耶を胸に抱き寄せ「莉紗。愛している…」と告げる。
しずくの刻みはおさまらないまま、莉紗は敦司の方を振り返る。莉紗は「敦司…」と吐息を漏らし彼の名を呼ぶ。二人は顔を見合わせる。顔を近づける。お互い抱き合う。
敦司と沙耶はTシャツを脱ぎ始める。
カメラがブレる。
「莉紗」と声がし、カメラが洞窟内に放り出される。放り出されたカメラは、ガチャンと音がして地面に放り出されるも、壊れることなく、和希の歩みを捉える。
僕は二人に近づいた。二人を呆然と眺めていると、夏目はいいシーンが撮れたといった。
僕は、何だか興奮していた。
二人はTシャツを着直す。
カメラを拾い上げ、撮ったばかりの動画を見る。
沙耶:「演技じゃないって、なんかいいよね。平十郎くん」
はっとした。僕は沙耶が夏目に獲られると撮影を忘れて、興奮していたらしい。
それを分かっても、僕の緊張は収まらない。心臓がドクンドクンと鼓動している。
ドクンドクンドクンドクンドクン….
「お前のせいでこうなったんだ。お前がノロノロしてるからこうなったんだ」。イベント会社時代の上司に僕はどやされている。皆、僕の事をじろりと見ている。誰もが「お前のせいだ」という表情をしている。上司に胸に手を突っ込まれ、心臓がわしづかみにされる。上司に足を蹴られる。ブチンと音がして、僕は地面に倒れる。上司の手には僕の胸からむしり取った心臓がびくびくとうごめいている。次第に目の前が暗くなる。