No.2019

題名:いけにえ、になった
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的に No.2018の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 僕は血が滴り落ちるリトルを抱えながら、シャツでリトルの患部を覆った。血は落ちることはなくなったが、明らかにリトルの体は弱っていた。そのまま、ゲツベさんへの挨拶を早々に僕はアパートに引き上げた。
 傷口にガーゼをあて血を止め、応急処置を施して、リトルを布団の中に寝かせた。でも、その後も、リトルの容態が心配で、夜もなかなか寝付けなかった。

 次の日、僕は勤務に行かなかった。勤務時間間近になると、ゲツベさんから案の定、連絡が来た。理由を伝えると「そうだな、休め」と言われ、その後にゲツベさんは軽くこう言った。「組織には、いけにえが必要だからな…。まっ、そう言うことだ」と。その奥でトラーが鳴いている声がした。ゲツベさんは機嫌よく「Hi(ハィ)、トラー」と呼びかける声が、受話器越しに高らかに聞こえた。
 「リトル」と声かけると、「にゃおーん」と答えてはくれる。ただし、僕の目で見てもリトルは少しずつ衰弱している。それは間違いなかった。そこで、電話番号を調べ、近所の動物病院に連れて行くことにした。
 診断では、何かに噛まれた跡のようだと教えてもらった。怪我ではないのですかと詰め寄ったが、いやこれは噛まれた跡に間違いないと言われ、傷口の状態について説明を受けた。あともう少し奥まで噛まれていたら、心臓も噛まれ、絶命するところだったとのことも教えてもらった。
 噛まれた…、あの時、リトルのそばに居たトラーの様子を思い出した。きっと、リトルは、彼に噛まれたに違いない。どういう理由であれリトルを勤務先に連れて行くべきではなかったのだ。
 きっと、リトルは、トラーの、いけにえ、になったのだ。
 その後に、医師から今日あたりが生死の境目かもしれないと言われた。抗生物質を投与したものの、傷口が思ったよりも深く、リトルが子ネコであることもあり、体力的にもかなり厳しいと言われた。僕は、覚悟してはいと答えた。でも、堪えていた。僕が勤務先に連れて行かなければ、リトルはこんな目にあわなかったはずだ。僕のせいだ。僕は僕自身を攻め続けた。布団の中でゆっくり休ませ、この薬を定時間的に与えて下さいと言われた。もし容体が急変したら、電話をくださいとも言われた。
 アパートに戻り、僕はリトルを暖かい布団にくるみ、様子を見ていた。声をかけると幾分、元気そうになっていた。抗生物質が効いているおかげかもしれない。僕は少し安心して、眠りについた。
 夢の中では、リトルとの楽しい生活の事を反芻していた。リトルとの生活で、僕は祖母が亡くなったことを忘れることが出来た。
 それは、今思えば、暗闇の中から明かりを求めてトンネルを抜け出すような体験だった(図)。

図 抜け出す1)

1) https://www.pinterest.jp/pin/1618549853914440/ (閲覧2021.4.4)

 
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