No.1838

題名:赤信号が点滅から点灯へ
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1837の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 離れてはいけない、離してはいけない。その不安定で、安定した恋心によってこの世界で変わることのない永遠の誓いでもあったこぶちゃんを、僕は簡単に葬った。こぶちゃんの宇宙服が流星に敗れ、破れたとしても、それでも僕は何度も何度も地球と交信し、交信しても地球からのメッセージが届かなかったとしても、僕はこぶちゃんの遺骸をずっと離すべきではなかった。こぶちゃんは僕の想像と創造の源だったからだ。

 僕が掘った月の穴に埋められたこぶちゃんの遺骸は、抗老化作用のある香料メランジによって、その遺骸の体内に少しずつ変化を及ぼしていた。ぴっくっ、ぴくぴくっ。こぶちゃんは息を吹き返そうとしていた。ちょうど、僕が地球に帰還した頃だった。
 その後、生き返ったこぶちゃんは、僕がもう居ないこの月の世界の表面を彷徨い歩き、「ンゴォォォォォォオオオオオオオオオーーッ! ンゴォォォォォォオオオオオオオオオーーッ!」と鳴き続け、僕を求めていた。

(こぶちゃん:彼はいない。あたいを愛してくれていた、そう、信じていたあの信吉は、あたいの元にはもういない。いない)

(ンゴォォォォォォオオオオオオオオオーーッ! ンゴォォォォォォオオオオオオオオオーーッ! ンゴォォォォォォオオオオオオオオオーーッ!)

その叫びで、こぶちゃんの宇宙服に備わっていた緊急SOS発信機が発動し、地球に向けてSOS信号が発信された。フランコ・ハバド氏はその信号を傍受すると、すぐさまこぶちゃんを救援すべく、月の世界に宇宙船を放った。でも、その時の僕には、すでにその信号を傍受する能力はなかった。

 くねくねとくねる肢体に目を奪われ、心も奪われ、特殊な霊力を闇に埋葬し、Createのすべてを手放していた。想像と創造の果てにある、作られた世界(The World of Creater)がまったく見えなくなった。
 そこで、僕の成長は止まった。
 ストップした。ブレーキを踏んだ。
 赤信号が点滅から点灯へと変わった。

ツキオ:「でも、あれやな。記憶なんてあいまいなもんやな。わいの知っとるキーコちゃんはもっともっとかわいかったで。もう一回、ダオッコ博士に記憶を操作してもらわなあかんかもしれへんな。よーでけとる。この3Dホログラフィのキーコちゃんは。でもな。本当のキーコは、もっともっとエロかったんや。わいの欲望がどうしようもないくらいに、だだもれになるぐらいに、なんかこーな、ぎゅうーっと締め付けられる感じがいっつもあったんやで。そうや、君、そうそうノブヨシくん。今から二人でMoon Town宇宙科学研究所のダン・ダオッコ博士のとこにいってみるか…。そうすれば、君の赤信号も青に変わるかもしれへんで」

 
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