題名:子種の人物
報告者:ダレナン
本報告書は、基本的にNo.1826の続きであることを、ここで前もってことわりたい。
ヴェルヌーブ氏:「かし…こまりました」
ジュニ・ヴェルヌーブ氏は、病床に臥せっているフランコ・ハバド氏に「かしこまりました」と誓ったものの、子種の選定にはやややっかいな問題が潜んでいることを見抜いていた。
それは、放射線の問題。
地球から月へとロケットを送り出すと、どのような遮蔽であってもその影響は免れることはできない。第1世代の魂の戦士たちの4人はすでに成体だったことから、この辺の問題はなかった。しかし、子種になると、その遺伝的な情報が破壊されれば、その後のMoon Townの秩序を守ることはおろか、Moon Townの世代の存続自体を破壊してしまう可能性が秘められている。だからこそ、慎重に事を進める必要があった。
一方で、ハバド氏の余命はそれほどないことも、ヴェルヌーブ氏は実感していた。もしかして、2、3日、もって1週間だろうか。
そのため、ヴェルヌーブ氏は今回の計画を遂行するには、最大1週間がリミットであろうとその期間を設けた。ハバド氏は、新たな血を送ることに対して、「地球の輩からテキトーに見繕った子種」と述べるも、やはり遺伝的に放射線に強い個体を選ばなければなるまい。ましてや、ハバド氏が亡き後は、自分がスペースZ社バージョン5を仕切り、デューン計画を遂行しなければならない。その重責が次第にのしかかっていた。
ヴェルヌーブ氏:(じつに…こまりました)
とりあえずヴェルヌーブ氏は、スペースZ社バージョン5の全職員の遺伝レベルでの放射線への耐性度について検査した。やや適合する低程度の職員は研究員X氏を除いてすべてが×であった。
ヴェルヌーブ氏:「低程度での研究員一人のみか…」
次に、仕方なく「Dsup」(*)の実験体である何人かの被検者に対して、放射線への耐性度を調べた。おおむねの人員は×であった。が、ある一人が放射線に対して抜群に耐えうる能力、特異的な能力を備えている人物を発見することができた。
それが、WDと呼称されている被検者であった。
WDなる人物を調べると、過去に地球上でも軽犯罪歴がある被検者であった。しかし、この素晴らしいまでの能力を有している人物をMoon Townに送る子種の人物として外すわけにはいかなくなった。
*:2016年の研究で発見された、クマムシの体内から、放射線からDNAを保護する役割を果たすタンパク質1)
1) https://nazology.net/archives/47612 (閲覧2020.9.11)