No.1802

題名:すべてのデータ
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1801の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 そばに居る。キーコがそばに居る。それを意識すると、あの音は鳴らなくなくなった気がした。気にも鳴らなくなっていた。木でセミが鳴いていたとしてもだ。ミーンミーン、ツクツクホーシと。でも、次第に、でも、キーコと離れた時は、余計に聞こえるようになり始めていた。キーコと過ごす愛しい時間が長くなればなるほど、僕はキーコと離れられなくなっていた。
 心は離れていない。耳をすませば、いつもキーコの声が聞こえる。「ツキオ。大好き…」と。その響きは天から降ってくる光のように、僕の心をいつも照らしてくれた。でも、離れると、実際にキーコの傍から離れると、その響きが、キーッキーッキーッっと車輪が回る音に変貌してしまう。

 あんなに愛に満ちていた心がどうして泣き出せるというの?

見えない影の顔に追われ、僕は見失っていた。

 キーッキーッキーッ、もう来ないで。

 心の揺れは悲鳴に変わり、キーコへの深まる愛とは相反し、世界中が実に素晴らしく思えたのに、どうして愛は死んでしまうの?
 僕たちは、いつしかそう考えるようになっていた。解のないQuestions in a World of Blueの中で、僕の心は貝のように閉ざされ、それが解であるかのようにふるまい始めた。
 完全に同調していたお互いの心が、耳を失ってしまい、そして、お互いの声も聞こえなくなった。そうして、振動した心は、その振幅がSin、Cosのように互い違いに振れ、ぷつんと愛が壊れた。

 彼女はいつか行くのだと言った
 彼女は遠くに行ってしまうのだと言った
 彼女は私に愛のためなら死ぬと言った

 そして、翌日、彼女は自分のすべてのデータを残して、この世から去ったのだ。

Moon人(ツキオ):「キーコちゃん。データでも、いつも輝いとるで。キーコちゃん、大好きやで。そのミニスカート、めっちゃ似合っとるで」
キーコちゃん(Moon Townの黄金の鍵さん):「ありがとう。でも、ツキオくんって、相変わらずよね…。でも、でもね…。今でもわたしのこと愛してる?」
ツキオ:「もちろん。あれからもずーっと」
キーコ:「ありがと」

 
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